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手話通訳者,手話学習者に求められる「客観性」とは——共感だけでは足りない心構え

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こんにちは。

今日は手話通訳者、学習者にとって何よりも重要な「心構え」について綴りたいと思います。

特に強調したいのは、「客観的な状況把握」と「感情移入の限界」です。

このことは、現場で働く通訳者にとって必須の技術・姿勢であり、手話を学習する段階から鍛えておくべき視点でもあります。

通訳現場は常に「一期一会」

通訳の現場は、毎回まったく同じということはありません。

依頼者が誰なのか、手話通訳を必要とする方の状態や気持ち、会場や部屋の様子、時間帯、立ち会う人数、天候…すべてが関係します。

さらに、手話通訳者自身の心理状態や体調、経験値なども見逃せません。

そのため、通訳者には「マニュアル通り」だけでは乗り切れない柔軟さと観察力が求められます。

私は現場に入るたび、「この瞬間だけの状況」を全身で感じ取ることを意識しています。

依頼者の意図、相手の表情、周囲の雑音や空気感、さらにはこちらの立ち位置ひとつまで、何ひとつとして同じ現場はありません。

手話通訳者の仕事は、単なる「伝達装置」ではなく、その場の空気と人とをつなぐ大切な役割だと日々痛感します。

感情移入=良い通訳、ではない

では、通訳者は常に「共感」していればよいのでしょうか?

決してそうではありません。

手話通訳者が聴こえない方の想いに共感すること自体は悪いことではありません。

しかし、「自分も一緒になって悩んだり、怒ったり、泣いたり」することと、通訳者としての職務は根本的に異なります。

通訳者の本来の仕事は、Aさんが話したことをBさんに、過不足なく、遅れることなく「正しく」届けることです。

Aさんが言っていないことや、頼んでいないことを、「本人の意志」だと勝手に誤解して付け加えてしまうことは絶対に避けなければなりません。

例えば、被災地の現場で非常に深刻な話を伝えているとき、通訳者自身が涙を流してしまいそうになることがあります。

その気持ちを押し殺してまで冷静でいろ、と言うのは酷かもしれませんが、それが「仕事」です。

被災者の言葉を、過不足なく、遅れることなく届ける。その責任を自覚しましょう。

「主観」は通訳の大敵

ここからは、少し学習者向けのお話にも触れます。

手話学習の場面でも、「自分の色を無意識に交ぜてしまう」ことには十分注意が必要です。

例えば――

  • 聞き取っている内容に自信がないから、つい半信半疑で語尾が上がってしまう

  • 聞き取りにくい環境や集中できない状況の場合、「自分は悪くない」と顔や態度に出してしまう

こういった「自分の主観」を通訳に持ち込むことは、プロとして「やってはいけないこと」です。

なぜなら、自分の姿勢や気持ちがそのまま「情報」として相手に伝わってしまい、本来のメッセージが「歪んで」しまうからです。

特に手話は、表情や動き、空気感すべてが意味を帯びます。

ちょっとした表情の揺れ、手先のぶれも、意図しないニュアンスを与えてしまう可能性があります。

「聞こえたまま」「受け取ったまま」を、素直に表現する力が必要なのです。

客観的な状況把握こそが通訳のプロの証

それでは、どうやって「客観性」を保っていけばよいのでしょうか。

正直、どれだけ修行を重ねても「完全に客観的」などという境地にたどり着くのは不可能かもしれません。

どこまでいっても通訳者という「フィルター」を通す以上、多少の色はついてしまうからです。

しかし、大切なのは「主観に気づくこと」「絶えず自分を問い直すこと」です。

私自身、現場に入る前は心を落ち着け、「この場で求められているのは自分自身の気持ちではない」と言い聞かせています。

そして、話者の言葉や意図、気持ちそのものを客観的に受け止め、必要なら一度「自分の中でゼロに戻す」イメージで通訳します。

通訳中も「今、本当に正確に届けられているか?」と自問自答し続けます。

通訳の仕事は「誰かの代弁」ではない

誤解されがちですが、通訳者は「話し手の代弁者」ではありません。

誰かの心を「自分事」として語ることは許されません。

通訳者の役目は、話し手の言葉や感情を「ありのまま」もう一人の相手に届けることだけです。

ここは非常に繊細なポイントです。

つい「Aさんのためを思って」「気持ちを汲み取って」内容を補足したくなったり、「想いを伝えたい」と強い感情移入をしてしまいたくなる。

ですが、それは手話通訳者の「仕事」ではありません。

伝わった先の世界で「Aさん」がどう行動し、どう感じるかはAさんのものです。

通訳者のものではありません。

練習の段階から「客観性」を意識する

これは現場だけでなく、日々の練習から始まっています。

手話の読み取り・聞き取り練習のとき、つい「こう聞こえたから、たぶんこういう意味だろう」と自分流の解釈を交ぜてしまいがちです。

しかし、練習の段階から「主観」と「客観」を見極め、「自分が思う」ではなく「本当に相手が伝えたかったのは何か」を意識する習慣が大切です。

もし読み取りに自信がなければ、その自信のなさをそのまま表情や動きに出すのではなく、「何が聞き取りにくかったのか」「どうすれば客観的に正しく表現できるのか」を考え、フィードバックをもらう。

その積み重ねが現場でも生きてきます。

「誰のため」の通訳か——常に自分を見つめ直そう

ここまで読んで「通訳って厳しいな」と感じた方もいるかもしれません。

しかし、この「主観と客観のバランス」を保つことが、通訳者としてのやりがいであり、誇りでもあります。

私たち通訳者には、「話し手の思いや立場に寄り添う」優しさと、「どんなときでも冷静に、客観的に情報を届ける」強さの両方が必要です。

うまくいかず反省することもありますが、「完璧な客観はない、でも一歩でも近づきたい」と思う気持ちが、まさにプロとしての成長につながります。

現場でのちょっとした迷い、練習時の自分の感情の揺れ、そういった「自分」を常に見つめ直し、問い直すこと。

それこそが、本当に優れた通訳者への第一歩だと私は信じています。

【まとめ】

  • 通訳現場は毎回異なる。マニュアル通りは通用しない

  • 「感情移入=良い通訳」ではない。共感し過ぎず、冷静さが必要

  • 主観ではなく、客観的に、事実や意図を伝える

  • 現場でも学習でも、主観を持ち込まず「自分はあくまで伝達者」と意識する

  • それでも完璧な客観はない。「自分はどう感じたか」を問い直し続けよう

手話通訳という仕事に関心がある方、現在手話通訳として活躍されている方、また手話を学んでいるすべての方の参考になれば幸いです。

質問や体験談などあれば、ぜひコメント欄でシェアしてください。最後までお読みいただきありがとうございました。

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