
手話の学習を続けていると、誰もが一度は「壁」にぶつかります。
「単語は覚えたはずなのに、いざ目の前にろう者が来ると真っ白になる」
「通訳の練習中、日本語の意味を追うだけで精一杯になり、表現が追いつかない」
もしあなたが今、そんなもどかしさを感じているとしたら、それはあなたの才能や記憶力のせいではありません。「学習の捉え方」と「継続の質」を少し変えるだけで、その壁は驚くほどスムーズに突破できる可能性があります。
今回は、手話学習者、そしてさらなる高みを目指す手話通訳者の皆さんに伝えたい、「結果を出すためのマインドセット」についてお話しします。
私の著書第2弾「誰も教えてくれない。手話を表現するための練習法」の内容を、別の語り口でお話しします。
1. 感情の「盛り上がり」をアテにしてはいけない
試験まで残り3か月。あるいは通訳現場の直前。
「よし、今日から気合を入れて1日3時間勉強するぞ!」と、自分を鼓舞した経験はありませんか?
もちろん、その意気込み自体は素晴らしいものです。しかし、厳しい現実を言うならば、「感情の盛り上がり」を頼りにした勉強は、長続きしません。
モチベーションというものは、波があります。体調が良い日もあれば、仕事で疲れ果てた日もあります。気分が乗っているときは高い集中力を発揮できても、一度その波が引いてしまえば、集中力も記憶力もあっという間に落ちてしまいます。
いわゆる「直前追い込み型」の学習は、一時的に知識を詰め込むことはできても、手話という「身体言語」を自分のものにするには不向きです。手話に必要なのは、短期的な爆発力ではなく、「凪(なぎ)」のような静かな継続なのです。
2. 「人が休んでいるとき」の5分が、決定的な差を生む
私たちは、特別な時間を確保しようとしがちです。「机に向かって、教科書を開いて、動画を再生する1時間」を作ろうとします。しかし、現実は忙しいものです。特に年末年始や連休、仕事の繁忙期など、世の中が休息や慌ただしさに包まれているとき、まとまった時間を取るのは至難の業です。
ここで、結果を出す人とそうでない人の差が生まれます。
結果を出す人は、「人が休んでいるときこそ、わずかな隙間を見つける」という習慣を持っています。
例えば、お正月の華やかな雰囲気の中で、何時間も机にかじりつく必要はありません。しかし、親戚が集まる合間の5分、お湯が沸くまでの3分、あるいは寝る前の10分。そのわずかな時間に、今日覚えた単語を一つ復習する、あるいは昨日の通訳練習の振り返りをする。
「たった5分で何が変わるのか」と思うかもしれません。しかし、この「0にしない」という姿勢こそが、脳の忘却曲線に抗い、記憶を定着させる唯一の手段なのです。
3. 手話は「思考」ではなく「運動」である
なぜ、毎日コツコツやる必要があるのでしょうか? それは、手話の実技が「運動の要素」を多分に含んでいるからです。
想像してみてください。
あなたは今、街を歩いています。信号が点滅し始めました。「あ、急がなきゃ」と思って小走りになるとき、あなたは自分の体にこう命令しますか?
「上体を15度前に傾けて、右足の親指の付け根で地面を強く蹴り、左膝を高く上げて……」
そんなことは考えないはずです。それは、長い年月をかけてあなたの体に染み込んだ「運動の習慣」だからです。いちいち脳が命令を下さなくても、状況に応じて体が勝手に反応する。これが「身についている」という状態です。
手話も全く同じです。
「えーと、あの単語は何だっけ?」と考えているうちは、まだ運動として定着していません。脳のリソース(容量)の大部分を「思い出すこと」に使ってしまっているため、相手の表情を読み取ったり、文脈を理解したり、通訳としての適切な訳語を選んだりといった「高度な処理」に脳を使う余裕がなくなってしまうのです。
4. 脳のリソースを「考えること」以外に使うために
手話通訳の現場では、瞬時の判断が求められます。
ろう者の表現を読み取り、その意図を汲み取り、適切な日本語に変換する。あるいはその逆。このとき、手の形や位置、動きの軌道について「考えて」いたら、通訳は破綻します。
「考えなくても、手が勝手に動く。口が自然に動く。」
この状態を作ることができて初めて、私たちの脳は「本当の意味での対話」や「高度な情報保障」のためにフル稼働できるようになります。
そのためには、理論を学ぶ時間よりも、実際に体を動かす時間を増やす必要があります。スポーツ選手が毎日素振りをするように、音楽家が毎日音階練習をするように、手話学習者もまた、毎日手を動かさなければなりません。
5. 「コツコツ」が最強の戦略である理由
「毎日長時間やらなくていい」と言われると、拍子抜けするかもしれません。しかし、これが真理です。
筋肉痛になるほどの激しいトレーニングを週に1回やるよりも、毎日少しずつ筋肉を動かし続ける方が、運動神経は発達します。記憶も同じです。一度に大量に詰め込むよりも、睡眠を挟みながら何度も同じ情報に触れることで、脳はそれを「重要な情報」だと認識し、短期記憶から長期記憶へと移行させます。
「コツコツやる」というのは、実は非常にタフな戦略です。派手さはありませんし、すぐに成長を実感できるわけでもありません。しかし、「運動と記憶を途切れさせないこと」。これこそが、あなたが目標とするレベルに達するための、遠回りに見えて唯一の近道なのです。
おわりに:今日、あなたの「5分」をどう使いますか?
試験に合格すること、通訳として現場に立つこと。その素晴らしい目標のために必要なのは、特別な才能ではありません。
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感情の波に左右されず、淡々と続けること。
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忙しい日々の中でも、5分、10分の隙間を「手話の時間」に変えること。
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「頭で理解する」以上に「体に覚え込ませる」ことを優先すること。
今、この記事を読み終えた瞬間から、あなたの練習は始まっています。
今日、まだ手を動かしていないのなら、今ここで一つ、好きな単語を表現してみてください。あるいは、今日あった出来事を手話で独り言のように話してみてください。
その積み重ねの先に、「考えなくても手が動く」という自由な表現の世界が待っています。
一緒に、コツコツと歩みを進めていきましょう。
次の一歩として、おすすめのアクション:
この記事を閉じた直後、最近覚えたばかりの手話単語を3回、実際に手を動かして復習してみませんか? その「一歩」が、明日への確かな変化を作ります。
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