
こんにちは、あらかわいおりです。
手話学習を続けていると、必ずと言っていいほどぶつかる壁がありますよね。
そう、「読み取り」です。表現(表出)は何とか形になっても、相手の手話が速かったり、知らない表現が出てきたりすると、頭が真っ白になってしまう。
「あ、今の単語なんだっけ?」と考えている間に、話はどんどん先に進んでいく……。
あの絶望感、私も何度も味わいました。
実は、手話通訳者が頭の中で行っている「読み取り」は、単に「手話という単語を日本語に置き換える作業」ではありません。
もっと複雑で、かつクリエイティブな脳内プロセスを経て、言葉を紡いでいます。
今日は、手話学習者から一歩踏み出し、通訳レベルの読み取りを目指す皆さんのために、その脳内の「裏側」を言語化してみたいと思います。
1. 「単語を追う」のをやめた瞬間、読み取りは変わる
まず、多くの学習者が陥りやすい罠が「単語の逐次通訳」です。
目で見た手話の動きを、一つひとつ脳内の日本語辞書と照らし合わせ、「山」「行く」「楽しい」と繋げていく。
これでは、情報量が増えた時に脳の処理速度(ワーキングメモリ)がパンクしてしまいます。
手話通訳者の脳内では、以下の3つのステップが高速で回転しています。
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脱言語化(意味の抽出)
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イメージの保持(映像化)
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再言語化(日本語へのアウトプット)
「脱言語化」とは何か?
これは、手話という「形」を一度壊して、その奥にある「概念(イメージ)」だけを取り出す作業です。
例えば、「車を運転する」という手話を見たとき、頭の中に「車・運・転」という文字を浮かべるのではなく、実際にハンドルを握って道を走っている映像を浮かべる。
言葉を「音」や「文字」として捉えるのではなく、「情景」としてインストールすること。これが読み取りの第一歩です。
2. 脳内の「バッファ」をどう使いこなすか
通訳者は、話し手が話し始めてから数秒遅れて訳し始めます。この数秒間、脳内では何が起きているのでしょうか。
文脈の先読み(トップダウン処理)
読み取りが得意な人は、実はすべてを目で追っているわけではありません。
「この文脈なら、次はこういう話が来るはずだ」という予測、つまりトップダウン処理を強力に働かせています。
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ボトムアップ: 見えた手話から意味を組み立てる(パズルのピースを集める)
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トップダウン: 全体の絵を予想して、欠けているピースを埋める(完成図を想像する)
この両者のバランスが重要です。手話の技術だけでなく、社会情勢や専門知識、その場の状況といった「背景知識」が豊かであればあるほど、脳の処理負担は劇的に減ります。
3. 「非手指動作(NMM)」を脳でどう処理するか
手話の読み取りで最も難しいのが、手の形以外の情報、つまりNMM(顔の表情、眉の動き、視線、体の傾き)の処理です。
学習者の多くは、どうしても「手」に集中してしまいます。
しかし、手話において意味の核心(疑問、否定、強調、時制など)を担っているのは、実は顔や上半身の動きです。
通訳者の脳内プロセスでは、NMMを「文法フィルター」として機能させています。
「手」で単語(名詞・動詞)を捉えつつ、「顔」で文の構造(これは質問なのか? 驚いているのか?)を同時にスキャンする。
このマルチタスクをこなすためには、NMMを「意識して見るもの」から「無意識に感じ取るもの」へと昇華させるトレーニングが必要です。
4. 読み取りの限界を超える「要約」の力
長い講演の通訳では、一言一句を訳そうとすると必ず破綻します。ここで必要になるのが「意味の要約」です。
脳内に取り込んだイメージの中で、一番伝えたい「核(コア)」はどこか。
通訳者の脳は、常に情報のプライオリティ(優先順位)をつけています。
「枝葉を捨てて、幹を掴む」
これができると、たとえ知らない単語が一つ二つ出てきても、全体の文脈を見失わずに済みます。
読み取りが止まってしまう人の多くは、この「枝葉(わからない一単語)」に執着して、幹を離してしまっているのです。
5. トレーニング法:脳の回路を書き換える
では、具体的にどうすればこの脳内プロセスを鍛えられるのでしょうか。私が実践してきた、おすすめの方法を3つ紹介します。
① シャドーイング(手話→手話)
流れている手話を見て、そのまま同じ動きを数秒遅れで真似します。この時、意味を考えすぎず「動きのパターン」を体に染み込ませます。脳の「入力」と「出力」のパイプを太くする訓練です。
② 要約復唱(手話→日本語)
手話の映像を1分ほど見て、一度止めてから「今の内容を一言で言うと?」と自分に問いかけます。細かい表現は無視して構いません。内容の「骨組み」を抽出する練習です。
③ 映像翻訳トレーニング
あえて音声を使わず、手話だけの動画を見て、そこにある「空気感」や「感情」を書き出してみます。単語の正解合わせではなく、「その人がどんな世界を見ているか」を想像する力を養います。
結びに:読み取りは「共感」のプロセス
手話通訳の読み取りプロセスを紐解いていくと、最後に行き着くのはテクニックではなく「共感」です。
「この人は、なぜこの表情で、この強さで、この手話を選んだのか?」
その背景にある感情や意図にアクセスしようとする脳の働きこそが、質の高い通訳を生みます。
単語の羅列を追うのはもうやめましょう。
相手が見ている景色を、自分の脳内にも同じように描き出す。
その映像が鮮明になったとき、言葉は自然と溢れ出してくるはずです。
手話という美しい言語の深淵に、これからも一緒に潜っていきましょう。
今回の記事はいかがでしたか?
「読み取りの時にどうしても単語に縛られてしまう」という具体的な悩みがあれば、ぜひコメントで教えてください。
もしよろしければ、あなたの現在の読み取り練習で一番苦労しているポイントを教えていただけますか? それをテーマに、具体的なトレーニングメニューを一緒に考えてみたいと思います。
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あと数日で4級単語の教材が出来上がります。次は短文の教材を作ります。
3級、2級、準1級(1級は手話辞典の中のすべての単語になる)
気が遠くなりますが、皆さんのために作ります。
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