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時間がかかることだから、今からやろう。読解力の勉強:身につけば手話の習得に最強の武器になる

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はじめに

手話通訳者、そして手話学習者の皆さん。日々の研鑽、本当にお疲れ様です。

私たちが目指す「手話通訳」という仕事は、単に音声を手の動きに、手の動きを音声に変換する作業ではありません。
それは、話し手の真意を理解し、聞き手の文化背景と言語様式に合わせて、その「意味」と「ニュアンス」を最適に橋渡しする、高度なコミュニケーション技術です。

この技術を磨く上で、多くの方が手話表現のストックやスピード、身体性の向上に注力されていることでしょう。
もちろん、これらは不可欠です。しかし、今日、私はあえて皆さんの盲点になっているかもしれない、あるいは「後回し」にしがちな「読解力」という、一見手話と無関係に思える能力について、その重要性と具体的な鍛え方をお話ししたいと思います。

なぜ、手話通訳者・学習者に「読解力」が必要なのか?

「手話は目から入る情報であり、口語とは異なる視覚言語だ」——これは紛れもない事実です。にもかかわらず、なぜ私たちは読解力、すなわち「文字で書かれたものを正確に理解する力」を磨く必要があるのでしょうか?

その答えは、私たちが扱う「日本語」という言語の本質に深く関わっています。

1. 扱うべき情報の本質は「日本語」にある

私たちが通訳する情報は、多くの場合、日本語で構築されています。

  • 音声通訳の場合: 講演、会議、ニュースなど、発話される内容は、日本語の論理構造と語彙に則って組み立てられています。

  • ろう通訳(手話から音声)の場合: ろう者の手話表現の背後には、彼らが日本語の文章やメディアを通じて得た情報、あるいは日本語の影響を受けた思考が混在していることが多々あります。

  • 事前学習・準備: 専門性の高い通訳現場(医療、法律、政治など)に臨む際、資料を読み込み、背景知識を仕入れる作業はすべて「読解」によって行われます。

読解力が不足していると、これらの日本語情報を表層的になぞるだけで、その裏にある「話の骨子」「筆者の意図」「論の展開」といった本質を見抜くことができません。手話表現がいくら流暢でも、通訳の根幹となる「何を伝えるべきか」を掴み損ねてしまうのです。

2. 「手話日本語」と「書き言葉」のギャップを埋める

特に手話学習者の皆さんにとって、読解力は「手話表現の洗練度」に直結します。

  • 書き言葉(文語)の理解力: 複雑な接続詞、専門用語、比喩表現など、日常会話では使わない書き言葉特有の表現を正確に理解する力。これは、「通訳」の現場で頻出する硬い日本語や、抽象度の高い内容を扱う際に必須となります。

  • 手話化の際の「抽象度」の調整: 日本語の文章を読んだとき、「この筆者の言いたいことは要するにAだが、Bという具体例を使って説明している」といった構造を瞬時に把握できれば、手話通訳の際に、適切な抽象度(概念)と具体例のバランスを見極め、より分かりやすい手話表現を選択できます。

通訳現場では、「話者の話している内容」「それを理解しやすく手話化する」という二つの思考が同時に求められます。このうち、前者の「話の内容の理解」を支えるのが、盤石な読解力なのです。

3. 辞書には載らない「背景知識」の習得

手話通訳の現場で最も難しいのは、単語そのものではなく、その「背景」「文脈」を理解することです。例えば、「サブプライムローン」や「SDGs」といった概念は、単語を覚えるだけでは通訳できません。

これらは、新聞、専門書、論文、ニュース記事などを「読んで」初めて、その成り立ち、影響、他者との関連性を深く理解できるようになります。
通訳現場で突如出てきた抽象的な概念や専門用語に対し、動じることなく通訳できる通訳者は、間違いなく日常的に多岐にわたる分野の文章を読み込んでいる人です。

なぜ「時間がかかることだから、今からやるべき」なのか?

読解力は、一夜にして身につくスキルではありません。それは、日々の文章との対話、思考の積み重ねによって、時間をかけて細胞レベルで構築されていく能力だからです。

 読解力は「基礎体力」であり、「複利」が効く

手話通訳の技術をスポーツに例えるなら、「手話表現」はドリブルやシュートといった「専門スキル」「読解力」は「基礎体力」です。基礎体力はすぐに身につきませんが、一度身につけば、その後のすべての専門スキルの上達を加速させます。

今日読んだ一つのニュース記事、今日理解した一つの専門用語は、来月の通訳現場での「理解の深さ」に直結します。読解力の向上は、まるで投資の「複利」のように、日を追うごとにその効果が増大していきます。だからこそ、「いつかやろう」ではなく、「今」始めることが最も効率的なのです。

脳のワーキングメモリを節約する

通訳とは、非常に高い認知負荷がかかる作業です。

読解力が高いと、「聴取・理解」のフェーズで、日本語の構造を瞬時に捉え、情報の肝(キーセンテンス)を自動的に抽出できます。これにより、ワーキングメモリ(作業記憶)の負荷が大幅に軽減されます

理解に要する認知資源が少なくて済む分、残りの資源を「記憶・保持」や「手話生成」に多く割り当てることができ、結果として通訳の質と流暢さが向上するのです。

 読解力を手話通訳の最強の武器に変える具体的な訓練法

では、私たちは具体的に何をすべきでしょうか。手話通訳者・学習者ならではの視点を取り入れた読解力向上策を提案します。

1. 「通訳目線」で新聞・ニュース記事を読む

訓練の焦点:論理構造の把握と要約

ただ読むだけでなく、「今から自分がこれを手話で通訳するならどうするか」という視点を持って読みます。

  • 主旨を抽出する: 記事を読んだ後、「この記事が言いたかったことは何か?」を20字以内で要約してみる。

  • 論理構造を分解する: 「導入」「問題提起」「背景」「具体例」「結論」といった、論理のブロックを色分けやメモで区別する。

  • キーセンテンスを見抜く: 筆者の主張を最も明確に示している一文(キーセンテンス)を特定し、それ以外の装飾的な情報を区別する。

この訓練を毎日続けることで、長文でも瞬時に「通訳すべき核」と「肉付け」を識別する力が養われます。

2. 「手話と日本語」の対訳訓練に読解力を応用する

訓練の焦点:表現の「抽象度」の調整

手話学習用の教材や、自身で収集した手話動画(手話ニュース、講演など)を利用して、読解力を手話に結びつけます。

  • ステップ①:日本語スクリプトの読解

    1. 手話動画の日本語スクリプトを、手話を見る前にまず読み込みます。この際、「この文章は、どの概念を、どの手話表現(CL、非指文字など)で表現するだろうか?」と予測しながら読みます。特に、「発展」「多様性」「国際協力」といった抽象度の高い語彙に注目します。

  • ステップ②:手話通訳の分析

    1. 実際に手話動画を見て、通訳者がその抽象概念をどのように表現しているかを確認します。その表現が、あなたが文章から読み取った「意味の本質」を反映しているかを比較検討します。

  • ステップ③:逆通訳訓練

    1. 手話から日本語に訳す(逆通訳)際、単語をそのまま日本語にするのではなく、「この手話表現が日本語の書き言葉で表現されている文章(文脈)はどのようなものか」を想像し、自然な日本語の文章(書き言葉に近い表現)で書き出してみます。

3. 多様なジャンルの文章を「速読」と「精読」で読み分ける

読解力には、「速く広く読む力(速読)」と「深く正確に読む力(精読)」の二種類が必要です。

読解の種類目的適した資料頻度「速読」背景知識の習得、時事的な感覚の維持新聞の幅広い記事、Webニュースの見出し、雑誌のコラム毎日15分

精読」複雑な論理構造の把握、語彙力の強化専門性の高い解説記事、社説、ビジネス書の一章、法律や医療の解説週に1〜2回

特に「社説」「論説文」は、筆者の主張が明確かつ論理的で、読解力の訓練に最適です。一文一文のつながり、接続詞の役割を意識しながら、時間をかけて深く読み込んでみましょう。

 おわりに:読解力は未来の通訳を支える資本

手話通訳の技術は、肉体の訓練のように、練習すれば目に見えて上達する部分と、内面の成長によって初めて花開く部分があります。

「読解力」は、後者の「内面の成長」を司る最強の武器です。この能力は、手話の表現力、知識の深さ、そして何よりも「通訳する内容の質」を根底から支え、通訳者としての信頼を確立してくれます。

時間がかかるからこそ、焦らず、しかし着実に。今日から、目の前の活字と真摯に向き合う時間を作りましょう。
その一つ一つの積み重ねが、数年後の皆さんを、手話の技術だけでなく、知的な深みを持つ真のコミュニケーターへと進化させているはずです。

手話学習者の皆さんは、読解力を身につけることで、手話表現の選択肢が格段に増えます。
手話通訳者の皆さんは、読解力を磨くことで、より複雑で高度な通訳現場にも自信を持って臨めるようになります。

「時間がかかることだから、今からやろう。」この言葉を胸に、今日から一歩を踏み出しましょう。

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